我らが隣人の宮部さん
    我らが隣人の宮部さん         
   
作品名 は行〜わ行
           作品名 あ行〜な行

『初ものがたり』等について


MACKYさんのコメント  
00/07/11
 http://www.ceres.dti.ne.jp/~kmfuji/
 「めるへん・めーか」 
 運営者のまさえさんのご主人で宮部ファンのMACKYさんが「週刊読書人計画」で書評。


 『初ものがたり』は、お江戸は本所深川一帯をあずかる岡引の茂七が、子分の糸吉、権三らとともに織り成すなんとも心地よい捕り物帖である。

 宮部の女性としての感性が、ここでは正体不明の屋台の稲荷寿司屋の親父が繰り出す、その美味しそうな品の数々。ミステリーを忘れて、あたかも深川界隈でちょうちんをくぐった気分で、絶品の稲荷寿しに、熱燗の酒、脂の程よくのった秋刀魚に、親父が苦心した品のある羊羹と、さまざまなマジックにつっかかっているだけで、きっと至福の時が訪れるはず。

 おっと、宮部マジックは料理だけじゃなく、仄々と江戸の人情捕り物帖も忘れずにたっぷりと淀み無く語ってくれる。 『初ものがたり』は、宮部の時代物としては私が初めて手にした作品だが、予想以上に楽しませてくれた素敵な六品であった。


『鳩笛草』等について

まゆさんのコメント 00/05/08
 

  「鳩笛草」文庫版、読了。やっぱり宮部さん好きです。超能力をもった女性が主人公の3編ですが、私は特に表題作にひかれました。

  読んでいる間は、もう「えっ?」の連続。超能力をそんな風に使ってしまうの? そうやって生きてきたのに、今度は能力が消える? 主人公・貴子には、ハラハラさせられたり、イライラさせられたり、でも最後にはすっかり感情移入してました。またしても宮部ワールドにはめられた!

  とにかく、「超能力」という設定はリアルじゃないはずなのに、物語はリアルなんです。宮部さんにとって、超能力も人間を描くための題材の一つで、それに振り回されてないんでしょうね。だから、地に足のついた物語になっている(えらそうですね、私・・)。

  もう一つ、この話を読んで感じたこと。それは、「存在を認めるあたたかさ」です。 異端の力やその持ち主であっても、そこにそのままいる(ある)ことを認められている・・・。だから主人公たちは、超能力に向き合って生きようとする人物として描かれるのではないでしょうか。



nanacoさんのコメント 00/08/24
 http://wish.milkcafe.to/
 「Seventh Heaven」 浅倉大介の音楽ファンでまた宮部作品ファンの個人サイト

  「超能力モノ」っていうと、近未来とか、どこか遠い宇宙の星で展開するお話を想像しがちですけれど、 『鳩笛草』に収録されているお話は、「さっき電車で隣に座ってた人が実は超能力者だった」くらいの気安さで 主人公たちが存在しています。「力」を中心に話が展開していくというよりは、 力を持った「人間」の内面や心の動きを細やかに描いたものなんですが、主人公たちが超能力者であること以外、まったく我々と変わらない人物 として描き出されていますので、非常に感情移入しやすいんですね。(^^)

 なぜこの世に生まれたのか。
 何のために この力を授かったのか。
 それでも私は、自分を捨てずにこの先も生きていかねばならない…

  別に超能力者じゃなくたって、こういう風に悩んだり苦しんだりすることってありますよね。だから、彼女たちが最終的には立ち上がり、前に進んで歩いていくことで、知らず知らずのうちに私たち読者も「うん、うん。そうだよな」って勇気づけられてるような気がします。 これも宮部マジックの1つなのかな、なんて思ったり。

  いちばん印象に残ったのは、「鳩笛草」に出てくるつぎの一文。

  「歌わなくても、鳩笛草は、地味だけどきれいな花ですよね」

  タイトルの意味の深さとか、やっとここでわかった感じ。そうか、ここに結びつけてくるのか! やられたー!(>_<) って本気で思いました。もう、完敗です。



『人質カノン』等について
『人質カノン』特設ページを設けました。
 Kinoさん、雫さん、谷やんさん、ヨシさんののコメントがあります。




『震える岩』等について

うにどんさんのコメント  00/01/19

 やまももさんのホームページ、拝見させていただきました。シンプルでちょっとオシャレなデザインがいいですね。私はあんまり凝ったものよりも、こういうページのほうが好きです。

 鋭い論点の感想文(てゆーか、これはもう解説?(^^;)も楽しませていただきました。「堪忍箱」だけは未読なので読み飛ばしてしまいましたが(^^;。エッセイも素敵でした。更新を楽しみにしてますね(^-^)。

 『震える岩』は私も大好きです。初読のときよりも、しばらく間をおいて再読したときの方がシビれました。それまでは圧倒的に『魔術はささやく』が私のベスト作品だったのですが、今ではベストが2作品になったという感じです。

 『震える岩』における右京之介の存在の重要さは、本当にやまももさんのおっしゃるとおりだと思います。また、お初ちゃんとのコンビネーションも抜群で、どちらかが感情的になればもう一方は冷静にというふうに、お互いをサポートしつつ信頼関係を深めていく様は感動的でさえありますね。クライマックスでは本当に泣けてしまいます。

 いろいろな謎やサブストーリーが立体的に構成され、見事に収斂して、暖かい読後感が残る。これはもう宮部みゆきの真骨頂ですね(^^)v。



peacemam さんのコメント 00/01/19
   http://www.kissnet.ne.jp/~peacemam/hime.htm

   「姫さまの館」 姫さまとは宮部みゆき姫のことです。

 やまももさんが書評を書いておられる「震える岩」は私の大好きな作品なので興味深く読ませてもらいました。それまで短編をずっと読んでいたのですが、読みやすくはあっても宮部さんの現代物に見られるような登場人物の苦悩などは薄く、「震える岩」でやっとその境地に達したという気がしています。でも「天狗風」では元に戻ってしまいましたね、ただのエンターテイメントになってしまってて。

宮部さんは仕事を断れない人だそうで、人気が出てくるに従ってどうしてもこなす仕事量が多くなり、内容的に薄目になって来つつあるようでそれが少し気になっています。文章力があるだけに、それだけでも読ませてしまうからなのでしょうけれど、少し充電してほしい気もします。


『ブレイブ・ストーリー』等について
 ブレイブ・ストーリー』特設ページを設けました。
 阿波っ子さん、にこさん、雫さん、きっこさん、テハヌーさん、ようさん、いたるさんのコメントがあります。


『返事はいらない』等について

MACKYさんのコメント  00/07/09
 http://www.ceres.dti.ne.jp/~kmfuji/
 「めるへん・めーか」 
 運営者のまさえさんのご主人で宮部ファンのMACKYさんが「週刊読書人計画」で書評。

  『返事はいらない』のどの作品においても読後の余韻がいつもほのかに、諦観ではなくほろ苦くも希望として残る。応援団の有名選手らへのエールとは違う、当たり前の市井のひとびとへの、必死に しがみつくように切々とした毎日を生きている者に対する宮部の怜悧だが血が通ったまなざし。我知らず、もう少し頑張ってみようか、と呟かせるような力が、声がこめられている気がしてならない。それにしてもなんて巧みな作家なのだろう。

 なお、表題作の「返事はいらない」には火車のプロトが提示されている。すなわち、ヒトが経済生活を営むうえで、抜きさし難く浸透している現在のカード社会。その「表の顔」としての明るく便利な消費の幻想としての薔薇色的生活の立ち居振舞いと、一歩その陥穽に嵌まり込んだが最期、名作『火車』にみられる「裏の顔」 、それは社会や経済の表には決して普段は姿を表わさないおどろおどろしい人間模様、すなわち社会からの放墜、人間としての存在を認められない非日常空間での世界の住人として生きてい くしかない姿が、「金融」という接点をもとに、『火車』の序章とし て描かれている。



『ぼんくら』等について
 『ぼんくら』特設ページを設けました。
 まあぼさん、HKさん、とむ影さん、巽昌章さん、葉さん、にこさん、テハヌーさんのコメントがあります。


『魔術はささやく』等について

go_madさんのコメント 00/07/16
 http://ww5.tiki.ne.jp/~go_mad/
 「格調高きゲス野郎」  S・キングの熱烈なファンの個人サイトです。


  やまももさんが私の個人サイトに以前おいでいただいた時は、宮部作品を読んでいなくて、最近ようやく一冊目「魔術はささやく」を読了しました。

  面白かったです。途中で止められなくて、一気に読んでしまいました。私の苦手な、国内モノ特有の現実味のない描写みたいなものがほとんどなく(いや、あったかもしれないけど、気にならず)、まずそれが、面白く読めた所以でしょう。そしてキングに影響を受けているというだけあって、キャラクターをからめた展開がものすごく巧いと感じました。謎を謎として隠すだけではなく、人物の描写においても見せる部分と隠す部分が絶妙のバランスをとっており、読者をぐいぐい惹きつけてページを繰らせていく筆力に感心させられました。私は、謎解きに終始して、人物が配置されたコマのように感じることに欲求不満を覚えるので、ミステリはほとんど読まないんですが、この作品では、人物の葛藤する様子なども重きを置いて描かれていて、とても面白く読めました。

  ところで、やまももさんは「魔術はささやく」に関して「罪と裁き」の面から感想を述べられていましたが、キングの「グリーンマイル」をご存知ですか。最近映画化されて話題になった作品ですが、この作品もしきりに「人が人を裁くこと」について問い掛けてきます。この作品はキリスト教をベースとした物語ですから、「人が人を裁くこと」については明確に「愚行である」という答えが作品中、主人公ポールの口を借りて語られています。キングは、現在特に特定の宗教の影響は受けていないと言っていますが、やはり無宗教の国民が大半を占める日本人の宮部さんや私たちと幼少の頃からキリスト教の教えに親しんだアメリカ人のキングとでは、こんなところに判定基準となるものの有無に隔たりがあることを感じるかもしれませんね。



薫葉豊輝さんのコメント 03/03/26
 
http://kaoruha.hp.infoseek.co.jp/
 「ニューダニット館」
 本格推理小説をメインとする創作、書評のサイト。

 『魔術はささやく』は、第二回日本推理サスペンス大賞を受賞された宮部みゆきさんの長編第二作ですが、宮部さんのエッセンスが存分に詰め込まれた、人間ドラマではないでしょうか!?そして、伏線、叙述、鍵の論理など、推理面も充実し、特に眼を見張るのは、人物造形の技術と、会話、描写力、それに関すると、達人の域!かって、松本清張先生が、社会性を推理の器へとシフトさせた功績を残されたのに対し、宮部さんは文学のエッセンス。それを推理へとシフトさせたのは、功績と言ってもよいのでは!?

 重複するも、文章の秀逸さは、文章の体温が人肌の温度にある点。ねちっこい文章、濃い文体。宮部カラーの個性満載。

 描写に関しても、普通、作者と作中の人物の距離は、開きがあることが多いですが、宮部さんの場合、この二者の距離感が、非常に狭い。それでいて、もちろん作者は神の視点{俯瞰}を維持しながら、きちんと全体をとらえているところは凄い。会話{男女の台詞=主にエステ関係のシーン}が生!この会話シーン、なかなかエステを経験してる人でも書けないと思えるほど、リアルさと、狡猾さが内在していて、まるで作者自身が、知能犯的思考を想像した結果、生まれたような台詞!お見事です。

 そして、悪女、女の恐さというものが書ける点は凄いですね。人を刺し、事件捜査という話だと、悪女の背景は浮き彫りになりませんが{=なかなか人間が書けない}、このスタイル+宮部節では、非常にそれが書けているので、さすがです。

 人物の個性の中でも、悪女と、少年と、老人を書くのが、特にお上手なのでは!?{よって、この作品を見る限り、青年以上、中高年までの人物造形力は少々劣ると思われます}

 さらに、鍵の論理まで収めていて、そして、叙述も上手い!伏線はさすが!

 単純に言うと、宮部さんという作家は、複数の人間や、物事の符号のさせ方が、非常に上手い方ではないでしょうか!

 最後に{唯一の}疑問点ですが、果たして、このような××術を用いて、×を×るなんて、本当に実現可能なのだろうか。という一点!?その点。例えば新世紀新本格の代表格の柄刀一さんが、そこの部分に99%の焦点を当てて、それを科学的、論理的に解決させることに、作家生命を賭けて取り組んでいる反面、この作品では、その論理性がまるで述べられていないので、そこは、少々食傷気味。でも、それを差し引いても、充分スリリングで、最高の読後感を与えてくれたので、{小説の}傷も魔術で消したのではと思えるほど、鮮やかな作品!

 宮部みゆき。このストーリーテーラーを料理人に例えるとするなら、出汁を作る職人。良質な水を使い、{一例として}昆布で出汁を取る。そこから厳選した食材{舞台、キャラ等}を用いて、最良な料理{物語}を構成する。料理の鉄人!

 この書を読み終わった直後、鏡を見たあなたはもう、その顔色を宮部色に染められているかもしれない!?


『模倣犯』等について
 『模倣犯』特設ページを設けました。
 みづれさん、凍月さん、ATUKAさん、風太さん、はづきさん、野垣スズメさん、ちゃくさん、Kinoさん、にこさん、あじさいさん、雫さん、オサムさん、テハヌーさん、りりもんさんのコメントがあります。


『夢にも思わない』等について
『今夜は眠れない』 『夢にも思わない』特設ページを設けました。
 まあぼさん、yoshirさん、ちゃくさん、野垣スズメさん、みんすくさん、わたこさんのコメントがあります。


『理由』等について
『理由』特設ページを設けました。
大矢博子さん、みづれさん、かずま。さん、ちゃくさん、りりもんさんのコメントがあります。


『龍は眠る』等について

ちゃくさんのコメント  00/11/14
 http://www.ne.jp/asahi/chmpm/chbk-y/index.htm
 
 「Champam」鑑賞した映画の紹介・感想とエッセイのHPです。

 「龍は眠る」を読みました。私は、幼いころから超能力に憧れ(笑)今でもとても興味があります。でも、読後はいい意味で裏切られました。サイキックはベースであってドラマ色の強い物語なんですね。

 慎司少年の力は彼の言葉で語られる一方で、織田青年の強烈に感じる力は第三者の証言からしか読者は知る事が出来ません。彼が感じたものを敢えて彼の口から出してないせいか、かえって鋭い刃先で身を少しずつ切られていく様なとても悲しい心の情景が目に浮かんでくるようでした。

 他人の気持ち、特にそれが自分に対しての本音が分かってしまう事って、普段の生活でもままあることですよね。サイキックは極端だとしても、ひょっとして「龍」は各々の中にあって、起こそうか、眠らせておこうかと潜在的にバランス取ってるのかもなぁ、と思いました。この作品読んだ後では眠っててもらうのを祈るばかりです。(笑)

 それにしても宮部さんの作品の中には必ず気持ちが真っ直ぐで救われるような登場人物がいるように思ったのですが・・・。そんな人達が絶望感を与えず、不健康な作品にさせてない気がします。だから次が読みたくなっちゃうんですよね。(笑)



にこさんのコメント  02/02/26
 http://www001.upp.so-net.ne.jp/niko/index2.html
 「本の数珠つなぎ」 読書のHPで宮部みゆきのコーナーもあります


 『龍は眠る』を最近読み直しました。これで読むのが3度目なのに、やっぱり感動でした。宮部さんは何かハンディがある人をよく小説に登場させますが、『龍は眠る』にもそのような人達が描かれており、印象深いものがありました。

 高坂は小枝子と結婚するはずだったのに、挙式の一ヶ月前にだめになってしまった。それは、ある能力が欠けていると分かったからだった。おかげで高坂は『アロー』に移らざるを得なかった。女性で失敗したなどとあらぬ噂を立てられた。恋愛や結婚に臆病になってしまった。

 三村七恵は、子どものころに、家の近くの化学工場で爆発があって、それが原因で、声をなくしてしまった。ホワイトボードや手話を使って話をしている。でも、周りの人に支えられながら、普通に生活している。

 高坂も三村七恵もそんなハンディに負けずに生きてきたのがすごい。本人の努力では変えられないものを前にしたら、それをしかたのないものとして受け入れるしかないのでしょうけれど、そう思えるようになるのは大変。

 しかし、超能力というものも実はハンディとなるんですね。高坂は、サイキックの慎司についてつぎのように心配しています。

「絶え間なく聞こえてくる、本音、本音、本音の洪水。そこから身を守るには、能力をコントロールすると同時に、自分の感情も制御しなければならない。」

 超能力もハンディになるということを私は考えたこともなかった。しかし、サイキックの一人である直也は、そんなハンディを独りで背負っていこうとする。そんな彼の姿が痛々しかった。


m-snafukinさんのコメント   02/04/21
 

 私は「龍は眠る」を何度か読み返しましたが、この小説には宮部作品の魅力が憎いくらいに詰っています。

 この物語の始まりは豪雨の真夜中,路上での雑誌記者の高坂と高校生の慎司少年との出会い。その状況がこれから起こる事件を予感させる。車内での二人の会話が過去に影を持つ記者と何か一途なものを感じさせる少年の人間像を想像させ、これが物語の伏線となる。そして衝撃的な事件との遭遇。徐々に明かされる少年の持つ能力。おそらくこの少年が主人公で、その能力によって事件を解決してゆくのだろうと読者は予想するだろうが、宮部みゆきのトリックはそれほど甘くない。さらに慎司少年とは非常に異なる人生と考え方を持っているもう一人の超能力者・織田青年が登場してくるのだ。ここまで来ると読者はすっかり作者の罠にはまってしまっている。記者の過去を中心にして進展してゆくもうひとつの事件。二人の超能力者は事件の表舞台から消えてしまう。そしてふたたび登場した時には・・・。読者の目を巧みにそらし,導きながら、それぞれの登場人物の人生を巻き込んで、真相が明らかになってゆく・・・。

 巧みなトリックとそのアイデアは宮部みゆきならではと思うが、その中に登場人物の生い立ち,懸命に生きようとしている姿が織り込まれていて、どうしても深みにはまっていってしまう。興味深いことは、眠る龍をそのまま眠らせておくことを願いながら生きていたはずの織田青年が、その能力ゆえにいつのまにかこの事件に巻き込まれてゆき、事件解決のために動き出した龍が、事件解決と共に彼の命を奪ってしまうことだ。読者が救われるのは、自分の大切なものを守る目的を達成したという彼の最後の笑顔。

 なお、記者の物語のラストにおけるつぎのような願いは、読者である私自身の願いと自然と重なった。

 「彼がもう一度この世に降り立ってくるときがあるならば、願わくばそれは、もう少し歩きやすい楽なものであってほしい。彼を苦しめないものであってほしい。今度は彼が人の役に立つだけでなく、人に助けてもらうことによっても幸せになれる人生であってほしい。」


『レベル7』等について

今野隆之さんのコメント  00/12/24
 http://www5a.biglobe.ne.jp/~t-konno/index.htm
 「PRIVATE EYES」
 宮部みゆきを含めてお好きな作家の読後感想を、著作リストと共に掲載。


 時には温かく、時には冷たく。決して一概には言えないが、僕なりに宮部作品の特徴を簡潔に述べるとこんなところである。そういう点では、純粋なサスペンスである「レベル7」は、異色の部類に入るだろうか。

 目覚めたら記憶を失っていた、若い男女。腕には「Level 7」の文字が。一体何があったのだ? 自分たちは何者なのか…。レベル7まで行ったら戻れない−謎の言葉を残して失踪した女子高生。少女の行方を探す、カウンセラー。

 二つの追跡行が並行して、物語は進む。作中の経過時間は四日間。文庫版で約660pの大作だが、緊迫感が途切れることはない。「レベル7」をキーワードに、二つの追跡行が交錯した果てに浮かび上がる、真相とは…。

 数ある宮部作品の中でも、本作ほど登場人物が印象に残らない作品はないのではないか。僕は本作を読んでいて、登場人物にほとんど感情移入しなかった。彼らはそれぞれに複雑な事情や辛い過去を抱えているのに、である。うがった見方かもしれないが、僕が本作を「異色」だと感じる理由はその点にある。

 彼らは皆、与えられた役割に従う役者であり、読んでいる僕は最後まで傍観者だった。こういう書き方をすると誤解を招きそうだが、決してつまらない作品ではない。十分過ぎるくらい面白い。ただ、僕にとっては純粋に謎を楽しむ作品だったと思う。

 そんな中で、事件の黒幕だった人物は哀れな男だと思った。地元の名士として幅を利かせる人物が辿った、なれの果て。彼が握った絶対権力は、地元だけのもの。それなのに、調子に乗り過ぎたね。井の中の蛙は、最後まで井の中の蛙だった。

 なお、「パーフェクト・ブルー」に登場した、蓮見探偵事務所の蓮見加代子探偵が友情出演(?)している。


みのむしさんのコメント  02/08/05
 

 前に「レベル7」を読んだとき、とにかく面白かったのを覚えてるだけで、内容はすっかり忘れてました。おかげで新鮮な気持ちで再読することができました(笑)。今回読んでも、やっぱり面白かったですね。改めて、宮部さんのストーリーテラーとしての力に脱帽しました。それは、言わばジェットコースターのような面白さ。最初に提示される謎の数々。それを解き明かすべく行動する登場人物たち。次第に明らかになる真相。そしてラストはどんでん返しに次ぐどんでん返し・・・。

 なお、今野隆之さんが上のコメントにおいて、登場人物たちを「与えられた役割に従う役者」と実に的確に表現しておられるのには参りました。確かに、登場人物の行動には私も少なからず疑問を抱きましたので(例えば、危険を顧みず、みさおの行方を追う悦子には、他人の娘のためにどうしてそこまで?と思うし、祐司たちを二重に騙して芝居を打つ三枝には、いくら復讐のためとは言え、そこまでややこしいことをするか?と思うし)、そうか、彼らは与えられた役割に従っていたのですね・・・。面白いんだけれど、読み終わって心に残るものがあまりないのも確かですね。謎解きに比重を置いており、意識的なんでしょうか、作者は登場人物に血を通わせようとはしていませんね。私が内容をすっかり忘れていたのも、そのせいなのかもしれません。

 ところで、日記に「レベル7まで行ってみる」と書き残して失踪した女の子の行方を追う悦子が、「レベル7」の意味を考える場面(p.130)があり、そこに出てくるのがジャック・フィニィの小説「レベル3」です。宮部さんは「まるごと宮部みゆき」のインタビューで「タイトルが決まらないと書けない」と仰ってますから、「レベル7」もまずタイトルを決めたのでしょう。そのときフィニィの「レベル3」が頭にあったのはまず間違いないと思います。違う作家の話で恐縮ですが、恩田陸の「月の裏側」もフィニィの小説と関係が深いんですよね。う〜ん、フィニィ、どうも気になる・・・。図書館で借りて読んでみようかな。



『我らが隣人の犯罪』等について

まあぼさんのコメント  00/05/21
 
 やまももさんのHPをいつも楽しく読ませて頂いてます。

  「我らが隣人の犯罪」懐かしい作品の登場ですね。わたしもやまももさんと同じ感想を持ちました。もしも彼女がこの作品を書きなおすことがあれば、最後の表現はかなり違ってくるかもしれませんね。まぁいろんな意味でこの作品は宮部さんの初々しさを感じる短編だと思っています。

  ところで、わたしは宮部さんの書かれた短編のなかでも
    ドルシネアにようこそ(返事はいらない)
   器量のぞみ(幻色江戸ごよみ)
   サボテンの花(我らが隣人の犯罪)
の三篇が特に大好きです。どこがそれほど好きなのかと言えば、それはつまり宮部作品に私が何を求めているか、ということになると思います。

  彼女がまだ新人作家としてデビューして間もない頃によく書評などで目にした言葉は「宮部みゆきの作品にはほんとうの悪人が出てこない。それは彼女の人間を見る目の優しさからくるものであろう」というものでした。わたしはこの言葉に惹かれて彼女の本を読み出したわけですが、今もわたしが求めているものは、まさにこの「他人を見る目の優しさ」です。

  コンクリートジャングルの道端で雑草が小さな花を咲かせているのを見つけたときの、ささやかな温もりみたいなものが、これら三篇の短編の魅力なのです。

  わたしの好きなこの三篇に描かれていることは、現実にはないことかもしれません。でも、というか、だからこそ、こういうことがあったらいいな、と。つまり、わたしにとって宮部さんの作品は現代のファンタジーであるような気がします





作品名 あ行〜な行

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