我らが隣人の宮部さん
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宮部みゆき短編作品
           
 「心に残った宮部みゆきの短篇小説」投稿募集について

 宮部みゆきは、長編作品のみならず短篇作品の名手としても定評を得ていますが、そんな彼女が新潮文庫の宮城谷昌光『玉人』のために書いた解説文のなかで、作家が長編小説を執筆することはお見合い結婚をすることと似ているとし、それと対比しながら短篇小説についてつぎのように述べています。

 「作家にとって、短編小説を書くことは、ほとんどそのまま恋愛をすることです。それも、ほとんどの場合は『結婚』という安定した形で成就することのない、爆発的で刹那的で、だからこそたいへんに燃焼温度の高い恋におちることです。」
 「長編小説という『結婚』の形態では表面に出てくることのない作家の個性が、その"恋″の相手である短編小説によって引き出されて、あとで振り返ると、書いた本人でさえ驚くような別の顔がそこに見えていたりします。いえ、むしろ、作家自身が意識的に"恋″の相手の短編小説にあわせて、日頃は見せない別の顔を思い切ってさらけ出すということもあるのです。なにしろ、この恋の相手とは、最初からごく短い付き合いだということがわかっているのですから、そのあいだだけでも、めいっぱい燃焼したいじゃありませんか。」


 確かに宮部みゆきは短編のなかで、様々な顔を見せてくれているようですし、ときには彼女の作家としての意外な側面に読者が戸惑うこともあるかもしれませんね。なお、宮部みゆきの短編小説集はこれまでに16冊も出されていますので、参考のためにそれらの短篇小説集を出版年順に並べておきます。

『我らが隣人の犯罪』(文藝春秋、90.01.30、文春文庫所収)
『本所深川ふしぎ草紙』(新人物往来社、91.04.05、新潮文庫所収)
『返事はいらない』(実業之日本社、91.10.15、新潮文庫所収)
『かまいたち』(新人物往来社、92.01.30、新潮文庫所収)
『長い長い殺人』(光文社、92.09.15、光文社文庫所収)
『とり残されて』(文藝春秋、92.09.25、文春文庫所収)
『ステップファーザー・ステップ』(講談社、93.03.25、講談社文庫所収)
『淋しい狩人』(新潮社、93.10.15、新潮文庫所収)
『地下街の雨』(集英社、94.04.25、集英社文庫所収)
『幻色江戸ごよみ』(新人物往来社、94.07.20、新潮文庫)
『初ものがたり』(PHP研究所、95.07.20、PHP文庫、新潮文庫所収)
『鳩笛草』(光文社、95.09.25、 光文社文庫所収)
『人質カノン』(文藝春秋、96.01.30、文春文庫所収)
『堪忍箱』(新人物往来社、96.10.30、新潮文庫所収)
『心とろかすような マサの事件簿』(東京創元社、97.11.28、創元推理文庫所収)
『あやし〜怪〜』(角川書店、00.07.30、角川文庫所収)
 
  なお、このうち『本所深川ふしぎ草紙』『長い長い殺人』『ステップファーザー・ステップ』『淋しい狩人』『初ものがたり』『心とろかすような マサの事件簿』は連作短編集ですね。

 このように宮部みゆきは16冊も短編集を出しているにもかかわらず、これまでネットでは彼女の短篇は長篇に比べて語られることが少なかったように思われます。それで、私の運営いたしますブログ「ポンコツ山のタヌキの便り」で独自の企画を実施することを思いつきました。すなわち、「心に残った宮部みゆきの短篇小説」の投稿企画を立ててみることにしました。それで、2005年9月24日より投稿を募集することにいたしました。

 「心に残った宮部みゆきの短篇小説」投稿文のご紹介

 「心に残った宮部みゆきの短篇小説」投稿募集にこれまでに14名の方が応募して下さいました。それで、募集開始から1ヶ月以上過ぎましたので、このページでまとめて紹介させていただくことにいたしました。にこさん、ひかるさん、ゆきうさぎさん、ひろさん、まるさん、papadasさん、 gracemomoさん、アトマツさん、ざれこさん、miwaさん、、Re−kaさん、いがぐり602さん、ととさん、ERIさん、以上のみなさまの「心に残った宮部みゆきの短篇小説」投稿募集へのご応募に心から感謝いたします。

 なお、やまもも自身は「この子誰の子」 (『我らが隣人の犯罪』所収)、「ドルシネアにようこそ」(『返事はいらない』所収)、「たった一人」(『とり残されて』所収)、「生者の特権」(『人質カノン』所収)、「紅の玉」(『幻色江戸ごよみ』所収)、「砂村新田」(『堪忍箱』所収)を挙げておきますが、名前を挙げだすと切りがないほど大好きな短篇がいっぱいあります。

 にこさんは「地下街の雨」(『地下街の雨』所収)、「砂村新田」(『堪忍箱』所収)、「 時雨鬼 」(『あやし〜怪〜』所収)、「サボテンの花」(『我らが隣人の犯罪』所収)、「 消えずの行灯」(『本所深川ふしぎ草紙』所収)、「この子誰の子」 (『我らが隣人の犯罪』所収)を挙げておられます。


 ひかるさんは『ステップ・ファザー・ステップ』、『鳩笛草』、『長い長い殺人』、「さよなら、キリハラさん」(『地下街の雨』収所)、「たった一人」(『とり残されて』収所)、『燔祭』を挙げておられます。

 ゆきうさぎさんは「サボテンの花」「我らが隣人の犯罪」(ともに『我らが隣人の犯罪』所収)、「かまいたち」(『かまいたち』所収)、「鳩笛草」(『鳩笛草』所収)、「地下街の雨」(『地下街の雨』所収)、ひろさんは「我らが隣人の犯罪」、「サボテンの花」(ともに『我らが隣人の犯罪』所収)を挙げておられます。

 まるさんは「我らが隣人の犯罪」(『我らが隣人の犯罪』所収)』、「朽ちてゆくまで」「鳩笛草」(ともに『鳩笛草』所収)の3短篇、papadasさんは『我らが隣人の犯罪』『ステップファザー・ステップ』『鳩笛草』の3短編集、ととさんは「女の首」(『あやし〜怪〜』所収)、「裏切らないで」(『返事はいらない』所収)、「私はついてない」(『返事はいらない』所収)の3短篇の名前を挙げておられます。

 アトマツさんは「鳩笛草」(『鳩笛草』所収)、ざれこさんは「安達家の鬼」(『あやし』所収)、 miwaさんは「片葉の葦」(『本所深川ふしぎ草紙』所収) 、Re−kaさんは連作短編集『淋しい狩人』、いがぐり602さんは「神無月」(『幻色江戸ごよみ』所収)、gracemomoさんは連作短編集『淋しい狩人』の名前を挙げておられます。

 ERIさんは「鳩笛草」(『鳩笛草』所収)、「八月の雪」(『人質カノン』所収)、「祝・殺人」(『我らが隣人の犯罪』所収)、「詫びない年月」(『淋しい狩人』所収)、「安達家の鬼」(『あやし〜怪〜』所収)を挙げておられます。また、ERIさんは以上の5短編について、つぎのようなコメントを添えておられますので、それらのコメントも下に紹介させてもらいます。

(1)
「鳩笛草」 
 超能力を持つ女性を主人公にしたシリーズの一篇。「朽ちていくまで」「燔祭」そしてこの「鳩笛草」の三篇があるのですが、この透視能力を持つ女性の話が、1番好きですね。前二作は超能力を持つ怖さ を軸にしているのですが、これは長年その能力と共に生きてきた女性の、その能力を失う怖さと喪失感を書いているところが面白いと思います。超常現象なのに、これが見事に日常の中のリアリティとして感じられるのが凄い。

(2) 「八月の雪」 〜 「人質カノン」所収
 執拗にいじめを繰り返すグループを挑発してしまい、追いかけられた結果、事故で右足を失ってしまった少年・充。原因となった少年達は罪に問われることもなく、充はその不公平感にさいなまれたまま、身動きがとれなくなってしまう。そんな時、祖父が亡くなり、残っていた遺書から、彼が2.26事件の一員であったことを知って・・。という、ミステリーとは少し違う話なんですが、なんだか心に残る作品なんです。平凡に、孫の目から見てそんなに大した人生を送ったようにみえないおじいちゃん。でも、彼は若いときに生死の極限を見た人だった。その後で一生を生き抜いた、という事実が、充に今の自分を客観視する強さを与える、そのことが感動的。「蒲生邸事件」につながる作品なのかな、と思います。

(3) 「祝・殺人」 〜 「我らが隣人の犯罪」所収。
 この短編集は、名品ぞろい。「我らが隣人の犯罪」の鮮やかさも素敵だし、「サボテンの花」も、着眼点がなんともユニーク。全部あげたくなるのですが、この「祝・殺人」で、見事にバラバラ事件を解決してしまうエレクトーン奏者の女性の推理が、もうほれぼれするほど素晴らしい。人のちょっとした仕草や行動から手に取るように心理を読み取る、その観察眼!宮部みゆきさんも、きっとこの「眼」を持っておられるんだろうな、と。彼女の人に対する鋭い視線がそのまま書かれているようで、非常に興味深いと思います。

(4) 「詫びない年月」〜「淋しい狩人」所収。
 この古本屋のイワさんと、孫の稔くんのコンビの連作、どれも大好きです。宮部さんの書く年配の人は、とても魅力的なんですよね。自分の人生を誠実に積み重ねてきたおじいちゃんと、これから人生を積み重ねていく孫という組み合わせが、ドラマを生む。会話も楽しくて、いいシリーズです。自分の家に幽霊がでる、そう言い続けるご隠居さん。その家を壊すと、古い防空壕のなかに親子の白骨が発見される・・。というお話です。人の抱える暗闇。ぽっかりと穴をあけた防空壕のように日常の中に潜んでいる一面を覗き込む、こわい一篇。何があったのかがはっきり語られないところが、いっそう想像力を刺激されて、こわい。

(5)  「安達家の鬼」〜「あやし〜怪〜」所収。
 これは他のかたもあげておられましたが、やはりこれは名編だと思う。忌み嫌うもの、穢れとして閉じ込められた人々の思いが凝り固まってしまった「鬼」。その鬼を人生の道連れとした女性の強さと寂しさ。最後に姿を見せた「鬼」の姿が印象的。「鬼」とは、自分の心を映したものなんでしょうね。短いけれど、深い作品です。

  以上14名の方の投稿をまとめさせてもらいましたが、このように短篇または短編集の題名を見ているだけで、それらの優れた作品を読んだときの感動が自然とよみがえって来ます。うーん、名前を挙げていただいた短篇や短編集について、みなさんと一緒にさらにいろいろ語り合いたいものです。

 「心に残った宮部みゆきの短篇小説」についての投稿募集は今後もまだ継続していきたいと思います。投稿を希望される方はいつでも送っていただきたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

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