我らが隣人の宮部さん |
「所田良介と、所田春恵と、所田一美の不幸の源。あまり大きな声で言われることはないが、厳然とした事実がそこにはある。親子にも相性があり、人間的に相容れなければ、血の絆も呪縛になるだけだということだ。」 『R.P.G.』(集英社文庫)、169頁 |
『R.P.G.』等について HKさんのコメント 2001/08/24 cozi@nn.iij4u.or.jp たった今、『R.P.G.』を読み終わりました。犯人探しという点からいうと、3分の1くらい読んだあたりですでに「この人かなぁ?」という感じでわかりましたけど、やはり、その真相にいたる仕掛けというか、プロセスが見事でした。まさに一幕ものの舞台劇、見る者と見られる者の逆転、不思議な、しかも心地よい違和感・・・。 「家族」というもの。「親」というもの。毎日毎日、何年も何年も顔を合わせて、一緒に暮らしていても、決して互いに、全てを受け入れるなんてことはできない。無条件の絆なんて、どこを探したって見つからない。たぶんそれは幻想。だけど、幻想だけど、それが拠りどころ。否定したら、私たちは宙ぶらりんな存在になってしまう。 「親」という装いを脱ぎ去ることをせず、「娘」「息子」という仮面を剥ぎ取ることをせず、それでも、ほんの少しでも理解し合えたら、その一瞬を大切に胸にしまって「家族」を続けていく。そうやって生きていく。 所田のハンドルネームが「お父さん」だというのが、すごく象徴的でした。どこにでもいそうで、実はどこにもいるはずのない「お父さん」。生身をさらさず、幻想の中に甘えきってしまった「お父さん」。そして、頑なに自分が自分であることに拘り、現実も幻想も何もかも否定して、叩きつぶしてしまった、かわいそうな犯人。おっと、これ以上書くとネタバレになりそうなので止めますね。 にこさんのコメント 2001/08/26 nn11ii@anet.ne.jp http://www001.upp.so-net.ne.jp/niko/index2.html 「本の数珠つなぎ」 読書のHPで宮部みゆきのコーナーもあります 『R.P.G.』を読み終わりました。ラストはびっくりしましたが、どんでん返しなら、もっとすごい作品がいくらでもあります。そんなのがこの作品の目玉ではないと思います。目玉は、犯人の心理をあそこまで容赦なくはっきり書いたことだと思いました。私は、正しいことにこだわって周りが見えなくなることがあるので、宮部さんの、犯人に対する次のような記述が一番印象に残りました。 「その場所、その瞬間に立っていた位置から、半歩足をずらすことができなかったのか。半分身体をひねって、別の角度で見ることができなかったのか。」 途中で犯人がわかってからは、何度か読むのをやめようと思いました。刑事さんが「赤子の手をひねるように」犯人を追い詰めていきます。もちろん殺人はいけないけれど、犯人の気持ちも分かるから、何とかこの流れを止めたいと思いました。でも、誰にも止められません。武上さんも石津さんも、仕事とはいえどんなに辛かったことでしょう。 ところで、 『R.P.G.』では、疑似家族の「お父さん」がネットで「カズミ」と一緒に見に行ったと書いていた映画が、「アメリカン・ビューティ」でした。どんな映画か気になって、ビデオを借りて見ましたが、家庭崩壊を扱っており、すごく内容が濃い映画でした。 この映画の主人公はレスター(ケビン・スペイシー)で、彼には妻のキャロリン(アネット・ベニング)と高校生の娘のジェーン(ソーラ・バーチ)がいます。ジェーンがまだ小さかった頃は、幸せな家族でしたが、今では食事の時に全然会話がなく、冷え切っています。娘のジェーンは、本当は父親にもっと自分に関心を持って欲しいと思っていました。しかし、父親の方は、もう娘に嫌われていると思い込んでおり、そのためにだんだん二人の心は離れてしまいました。ある日、レスターは何と娘の友達のアンジェラ(ミーナ・スバーリ)に一目惚れします。アンジェラも、ジェーンがどう思うかなんかおかまいなしで、レスターを挑発します。そして、ジェーンは……。もうネタばれになりそうなのでやめます。しかし、こんな映画を「お父さん」は「カズミ」と一緒に見たと書いているんですね。 S.Tさんのコメント 01/09/02 veniveni@kawachi.zaq.ne.jp 「R.P.G」は、このところ売り出し中らしい「宮部みゆき」の最新の文庫本書き下ろし作品なんですね。われわれのような年輩になると、生意気ながら若い人が書くものは、ことばの貧しさや持って回った気分の表現などが気に入らなくて、ついつい食わず嫌いになっています。彼女は、前から気にはなっていた若い作家ではあったのですが、こんな理由で今まで手が出ませんでした。 今回は、発売の翌日あたりに大手の本屋を歩いたら、売り場のあらゆる場所に盛大にこの本が平置きしてあるのにぶつかり、なおかつ500円ジャスト、ページ数300あまりという、売り出し方のうまさ盛大さとに引っかかって、うまい手頃感に乗せられて買ってしまいました。食わず嫌いの範疇に入って読む気にならなかったら、止めたらいいや、という気分も働きました。 しかし、その予想は見事にいい方に外れました。文章のメリハリ、話の構築感も想像以上のもので、夜中までかかって、一気に読まされました。その残像のようなものが残って、寝不足になってしまいました。大変な前置きになってしまいましたが、本当に珍しく読まされた本でした。 やっと、本題に入って行くとしましょうか。 この小説の主題は、二重の意味での疑似家族の話です。一つは、現実の世の中の実際の家族の話です。もう一つは、コンピュータのインターネット・チャットグループで出来上がった、まさにサイバー家族−まさに疑似家族です。 実際の家族の方は、おとうさんと、おかあさんと、むすめがいる普通のサラリーマン家族で、外から見ると模範的な家族に見えるのです。しかし、実態はそう見えるだけの「ごっこ家族」でしかなかった。おとうさんが家族の絆からはみ出していた。しかし、そうは見えない。そういう意味で第一の疑似家族といってもいいと思います。 もう一つは、コンピュータの中のチャットグループの中で、おとうさん、おかあさん、むすめ、むすこの役割を演じて、現実の社会や家族からの桎梏を回避しているという正真正銘の疑似家族なのです。その両方に登場するのが「おとうさん」で、そのおとうさんが現実の世界で殺されてしまうのです。 その解明捜査のプロセスが物語になっているわけですが、その手法に表題の方法が使われるという仕掛けなのです。後者の疑似家族が捜査の現実の中に登場して事件が解明されていくのです。この手の本の紹介は、語りすぎは禁物ですが語らなさすぎも不親切です。しかし、結末成り行きにあまり関係ないことが、ぼくが読まされた理由の一つですので、もう少し話してみます。 それは、今の社会のあるいは家族像の透明に近い手応えのなさ、それぞれの人間が、いかにばらばらに、砂粒のように散らばって生きているのか、そして、コンピュータの、目にも見えない掴むこともできない電流や電波の飛び交うかすかな関係の中で、希薄な喜びや癒しを求めて生きているのか、その風景がリアルに見えて来たことです。こうした社会状況を、実に見事にこの本は見せてくれました。「IT革命」の薄暗く不気味な様相の一つを垣間見た気がしました。作者のしっかりした視覚がそんなところにしっかりそそがれていました。 最後には、推理小説の醍醐味とでもいうべき「どんでん返し」がひっそり読み落としそうな感じで用意されているのも気に入りました。 まだ、暑い日が続いていますが、いっとき、それを忘れさせてくれるエンターテインメントです。お薦めします。この本、ベストセラーに必ずなるような気がしています。 野垣スズメさんのコメント 01/09/09 nogaki76@hotmail.com http://www1.kcn.ne.jp/~taka7823/ 「野垣研究所」 プロマンガ家のオリジナルイラストメインのサイト。「模倣犯」のイラストあり。 「家族」という単位が呪縛・・悲しいですね。「R.P.G.」を読んでも、私自身は自分の家族にそれほど負の感情がありませんので、犯人に「それは非道いんじゃない」と言う権利もありません。犯人にしか分からない怒りの凄まじさが、あるんでしょうね。 しかし・・正義という言葉があれば何でも許されるというのは・・。自分の中の正義、それは持たなくちゃやっていけないと思います。だからといって、「白黒」(正義か否か)でしかこの世をとらえられないのは怖いです。犯人の感情には、やはりついていけない。どちらでもないグレーの世界を受け入れられないのは、怖い事です。 「R.P.G.」のお父さんの行為は確かに卑怯だと思います。振り向いて欲しいからといっても、彼の行為はやはり汚らしい。ただ、石津刑事が「短所は、同時に長所でもあることがよくあるの」と言っていますね。石津刑事のこの言葉にとても共感させられました。お父さんの性格に助けられている人が多くいるのかもしれません。出会い方によっては「とても素晴らしい人」にもなるかもしれません。私はこの人物をかばいたいのではなく、事実としてそういうことってあるよなあと、とても実感できるのです。 大好きな脚本家・三谷幸喜の作品にはよくあるのが「褒められはしない良くない人間が、場面によっては人を救う」というシチュエーションです。私は「自分のこの性格嫌だなあ」と思うこともしばしばですが、だからこそ三谷作品に励まされることが多いのです。 「R.P.G.」にはやりきれない悲しい事件が描かれてました。次回の宮部作品では、素敵な親子というものをまた見たいです。 ATUKAさんのコメント 01/09/18 a-tsukamoto@mqc.biglobe.ne.jp 「R.P.G」の感想です。 小説のテーマ、メッセージ性について: いくつか柱があったでしょうか。「家族」「ネット」(いわゆる現代社会の人間関係)、それからあえてあげるとすれば「正義」でしょうか。これらの問題について色々考えさせられた作品でした。 人間関係のことについていえば、この作品で宮部さんが御自分の価値観や見解を読者に明確な形で訴えているのではなく、あくまで問題提起の段階でとどめている感じです。僕もこうしてネットを通じてこのような投稿をしているわけですが、あらためて、ネットとの付き合い方を考えさせられました。 それから「正義」のことについて言うと、一美が考えている「正義」は「正義とは何か?」という議論にとり上げることすら出来ない程度の低いものでしょう。(青木淳子の場合は「公共性?」があるだけ議論にとり上げるレベルにはあると思います) 小説の形式: 「スナーク狩り」のような“ワンナイトチェイス”というのはよくありますが、回想等以外で、時間が連続していて途切れないという長編小説は初めて読んだような気がします。ほんの数時間の話しですよね。「理由」とはまた違った実験小説かと思いました。 しかし、最初のA子の証言の部分は、A子から話しを聞き出している人物は特定されておらず、まさに「『理由』形式」です。「家族」がテーマになっていたということも合わせてこれが「理由」と似ているといわれるユエンでしょう。 作品名 あ行〜な行 作品名 は行〜わ行 「我らが隣人の宮部さん」目次に戻る |