我らが隣人の宮部さん
『ステップファザー・ステップ』
(講談社、93.03.25)

  我らが隣人の宮部さん 

 
 『ステップファザー・ステップ』の続編
 
「バッド・カンパニー」シリーズの紹介と感想
   
報告者 風太さん 
  http://homepage2.nifty.com/time-tunnel/
 
    
 
「俺が言いたいのはな、俺だって淋しいと感じるってことさ。除者(のけもの)にされたなら。もう要(い)らないよと放り出されたなら。おまえらは俺を、実の親の代用品、取り替えのきく部品だと思ってるらしいけどな、俺にだって感情はあるんだぞ。だから、おまえらと楽しく正月旅行をするのもいいさ。仲良くなるのもいいだろう。お父さんごっこをしようや。だけと、それをどこで止めにする? おまえらと仲良くなったら、ごっこ遊びを止めたとき、俺がどんなふうに感じるか── おまえら、それを一度でも考えたことがあるか?」
『ステップファーザー・ステップ』
      (講談社、93.03.25)

テレビドラマ「ステップファザー・ステップ」
                   by やまもも   
   

『ステップファザー・ステップ』等について

まゆさんのコメント  00/05/03
 ANB45690@nifty.com


 宮部作品をこよなく愛するまゆと申します。宮部作品はすべてと言ってもいいほど好きな私ですが、なかでも「ステップファザー・ステップ」は何度も読み返すほどすごく好きなんです、自分でも不思議なくらいに。

 親に捨てられた(?)双子の兄弟と擬似親父の泥棒。現実にはありっこない御伽噺のような物語。でも、読んでいて、心があったかくなったり、切なくなったりするんです、本当に心に響くんです。いつのまにか双子たちがとってもかわいく思えてきて・・・

 だからこそ、最終話はどきりとさせられました。擬似親父の泥棒さんはどうしようもない現実と向き合ってしまいます。「もし双子の親が帰ってきたら・・」。 結局、すったもんだの末に今の生活は守られるわけですが、一度向き合ってしまった現実は忘れるわけにはいかない。この幸せな(?)ステップファザー生活は、永遠に続くものではない、と、主人公たちは自覚してしまう・・。それでも、その思いを抱えながら、お互いに関わって生きていこう(大げさ?)とする彼ら・・。

 お互いの存在をいとしく思う気持ちと、いつかは終わりが来るかも・・という切なさ、それを含んで笑顔を見せる3人の姿に、私は宮部さんらしさを感じたんです。人間への深い愛情と、現実を見つめる透徹した視線・・それが宮部作品から私が感じるものです。だからこそ、「ステップファザー・・」も、単なる御伽噺ではなく、心に響く物語になっているのだと思うのです。



ちゃくさんのコメント  00/12/09
 chaboko@excite.co.jp
 http://www.ne.jp/asahi/chmpm/chbk-y/index.htm
 「Champam」鑑賞した映画の紹介・感想とエッセイのHPです。

 「ステップ・ファーザー・ステップ」をもう一回読み直しました。双子の男の子達がなんとも愛苦しいですね。やまももさんのコメント通り、「国土を汚したくない」のくだりで笑ってしまいました。「俺」の間髪を容れずのツッコミも可笑しかった。

 あの男の子達は賢くて経済的に窮屈でさえなかったら自分達で自由自適にやっていくとは言いつつも、「俺」になついてしまう彼らには、子供だけではどうしようも出来ない、と言う不安と守ってくれる人がいない寂しさがあったのかもしれませんね。

 この「俺」って人もなかなか魅力的な人で「職業泥棒」に徹するドライな面を持ちながらも義理と人情を重んじる人。そのギャップに笑いを誘われました。お前達の食いっぷちはお前ら自身にもかかってるんだから協力しろってあたりの彼らの共同作業。(笑)

 でもこれはステップ・ファーザーとは言え、ある意味理想に近い父親像なんじゃないかな?とすら思ってしまいました。父親と一緒に何かがしたいんではなく、大人として何か任されたいって部分はどの子供にもあてはまると思うんですよね。

 知り合ったきっかけこそどうであれ、情がうつった同士、一緒にいて幸せならもうこの際いいじゃない!夜空を見上げながらバーベキュー、匂いにつられたご近所さんも・・・なんて情緒豊かで暖かいラストなんでしょう。読後はほのぼのでした。


『ステップファザー・ステップ』の続編
  「バッド・カンパニー」シリーズの紹介と感想
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   「タイムトンネル」 風太さんとお嬢さんとで運営する読書サイト


「ファザーズ・ランド」について  02/01/25

 「大極宮」で『ステップファザー・ステップ』の続編は単行本になりません、とありましたので、それでこの小説の続編が連載された『小説すばる』を勤務先の図書館で借りて読むことにしました。今回、その内容についてみなさまにご紹介したいと思います。

 なお、続編は『小説すばる』に「バッド・カンパニー」シリーズとして5回にわたって連載されたようですが、残念ながら勤務先の図書館で所蔵している同誌は98年10月号以降のバックナンバーのみのため、私が読むことができたのはその第4、5話の「ファザーズ・ランド」前、後篇(同誌の98年12月号と99年1月号に連載)のみでした。それで、98年12月号の「ファザーズ・ランド」前編に添えられていた前回までのあらすじも参考にしながら、この「ファザーズ・ランド」のストーリーの概略をまとめてご報告させてもらいます。なお、紹介文のなかの「俺」とは、物語の視点人物で双子のステップファザーとなってしまったドロボウ氏のことです。

 「俺」が双子の両親を探し始め、母親の行方を知っているらしい女性に会うところから、今回の話は始まります。そして、この女性が実は4年前に性転換した元男性であることがケンという青年により知らされます。「ファザーズ・ランド」前編に添えられていたあらすじによると、「俺」はこのケンと柳瀬の親父のところで出会い、彼が自分のクローンをさがしているらしいこと、しかも彼とあの双子の兄弟とは瓜二つで、彼らはともにクローンかもしれない、というショッキングな話を聞かされます。

 前篇では、元男性の父親が性転換を認めず、彼の男性時代の写真をネタに彼を脅しているとのことで、元男性は「俺」にその証拠のアルバムを自分の父親の家から盗み出してくれることを頼みます。そして、その代わりに双子の母親の行方を知らせてくれることになります。
 後篇は、ケンの助けを借りて「俺」が見事にアルバムを盗み出します。しかしアルバムには元男性が女性になった写真ばかりで、彼の父親が懸命に息子の新しい姿を受け入れようとしていたことが分かります。それから、元男性の方も約束通り双子の母親と連絡をとってくれたのですが、彼女はいま日本にいないとのことで、帰国して連絡がついたら知らせてくれる約束をします。

 ざっとこういう話でした。なお、ケンという青年は自分が生み出されたと思われる研究所の謎を追っているようです。その過程で前回までの話の中で何か事件があったらしいのです。今回の性転換した元男性の手術もそこで行われたそうです。
 しかし、あの双子たちがクローン技術で生まれたかもしれないという話は私には正直ショックでした。「俺」もそのことには動揺していて、双子のクローンかもしれない青年ケンに対しても、複雑な気持ちを抱いています。でも双子のことは可愛くて仕方がない。だから苦しい。ケンはそんな「俺」を「古き良き男」と呼んでいます。そんな「俺」がクローン技術や性転換に対して持っている感情をケンにつぎのように語っています。

「今や人間は怖いものなしで欲しいものは何でも手に入る。だけどそんなやりたい放題やってると何か大事なものが身体から抜けていくような気がする」(要約)

 「俺」はそれが嫌でたまらない。でも双子のことは可愛くて仕方がない。元男性の父親も娘になってしまった息子のことが理解できず、最初は激怒します。しかしその新しい姿を懸命に受け入れようとして、息子の嫌がる昔の写真つまり男だったころの写真を全部捨て、探偵を雇って今の「女」である写真を撮り、アルバムに貼っています。あまりに息子が意固地だから言い過ぎただけで、「どこの世界に子供を脅かす親がいるか」と言ったそうです。元男性は父親の心情を知りボロボロ泣きます。最後の部分を引用します。

「あの老人と俺とは仲間であるような気がした。解らない、嫌だ、だけど愛はある。そして俺もあの老人も、ケンの言葉を借りるならば、たぶんもろともに滅びゆく種族なのだ。父の領土(ファザーズ・ランド)は狭まり、土地は痩せてゆく一方なのだから。」

 ここから題名がとられたのですね。シリーズ全体としては双子の謎を追いながらも、「ファザーズ・ランド」前後編では「俺」が元男性の父親によせる共感がテーマになっているんですね。

 なお、双子たちは直接登場はしなかったのですが、電話の声だけでの登場があります。相変わらず交互に話す口調は健在でした。しばらく連絡がつかなくて心配していたという双子に「俺」が「万が一緊急逮捕ということがない限り、お前たちに黙って遠くへ行きはしない」となだめる場面がありますが、これにはホロリときました。それから、双子たちは犬を飼う事になったと報告していますが、その犬の挿絵があり、これが阿部真理子さんの描いたもので、ちょっとあのマサに似ていました。

 この「ファザーズ・ランド」でも双子の謎はまだ解明されていません。話の長さもちょうど「ステップファザー・ステップ」の1章分くらいです。なんだか中途半端な気持ちで落ち着きませんね。しかし。宮部さんがこの作品を単行本にされないとおっしゃっています。誠実な宮部さんだけに、扱っている問題がデリケートであり、慎重に書こうとされたけれど、結局は行き詰まってしまわれたのかもしれませんね。


「マザーズ・ソング」について  02/02/07

 「ファザーズ・ランド」の前のお話「マザーズ・ソング」が『小説すばる』98年5月号に載っているらしいので、県立図書館からとりよせてもらいました。ありました、ありました。

 この「マザーズ・ソング」では、双子たちもきちんと登場し、語り手の「俺」とケーキ食べたりお茶を飲んでいます。双子たちの自炊生活はすでに名人の域に達しているそうです。「今日あたりお父さんがきてくれそうな気がして」夕飯の買物をしてきた双子たち。もうほんとにいい子達! ああこのやりとりが見たかったのだわ、と大満足です。それから、双子のほかにも哲の担任の灘尾礼子先生や柳瀬の親父さんも出てきますよ。以下にこの話のストーリーを紹介します。

 物語の冒頭、「俺」の両親の思い出が語られています。6歳で父を失い、15歳で母を失ったといいます。母親はトランジスタラジオの組み立ての仕事をしながら、ひとりで彼を育ててくれました。

 今回の「俺」の本業での依頼人は、娘と夫を捨てて男に走り、今また元の夫に金を無心しようとする女でした。「子どもなんかに人生を左右されちゃたまんない」という女に対し、「俺」は自分の母親のことを思い、はたして双子の親はどうだったんだろう、と思い悩みます。

 「俺」は、双子の母親が働いていた事務所を探し当てますが、そこの近くにある骨董屋に入り、そこで彼の母親が昔組み立てていた型のラジオを見つけます。その時、偶然店内に母親が好きだった歌が流れてきたため、彼は立ちつくします。

 「俺」のために働き、育ててくれた母親への思いをつづる部分には泣けました。母親に対してこういう思いを持っている「俺」だからこそ、双子たちにあれほどの愛情をそそげるのでしょう。

 この後、目当ての事務所で双子の母親と同じ名の女性と顔を合わせるところで終っています。この続きが「ファザーズ・ランド」になるわけですね。


「ダブル・シャドウ」について   02/02/18

 ようやく小説すばる1998年1月号を借りて、「バッドカンパニー」シリーズの第2話「ダブル・シャドウ」を読むことができました。以下内容紹介です。

 双子たちは「俺」に家の合鍵をプレゼントします。「この家はもう」「半分はお父さんの」「家みたいな」「もんだから」という嬉しい心遣いに「俺」はポケットベルをプレゼントし、自分の携帯電話の番号を教え、3人相互に連絡をとれるようにします。

 ある日双子の家を訪ねた「俺」は直が学校を休み、沈みこんでいるのをみて驚きます。直は担任の先生に「一卵性双生児はクローンと同じ」と言われ傷き悩んでいたのです。「俺」はその先生に猛烈に腹を立てシメてやろうと思います。(全く同感!)またそれをきっかけに、直を哲と同じ学校に転校させたほうがいいかなとも考えます。次回の「マザーズ・ソング」で灘尾礼子先生にそのことを相談する場面が出てきます。

 柳瀬の親父の所へ行った「俺」はそこでケンという青年を紹介されます。「ファザーズ・ランド」に出てきたあのケンです。ケンは自分が父親のクローンであること、そのことに関して調べていくうちに知り合った女性が殺され、しかもその女性の死体は消えて、後日違う場所で無理心中の焼死体として発見されたといいます。ケンはその発見された死体は彼女ではありえない、彼女もクローンだというのです。関心をもたなかった「俺」に見せたケンの中学生の頃の写真は直と哲に瓜二つ。しかも両頬にエクボがありました。「俺」の混乱するさまでこの話は終わり、次回へ続きます。最後の部分を引用します。

「俺の頭の中はねじれきってしまい、すぐには返事もできなかった。そりゃそうでしょう、だって読者(あなた)だって、俺とふたごたちの話がこんなにシリアスな展開を見せるなんて、想像もしてなかったでしょうが、作者はどういうつもりなんだろうか?―中略―あのバカ、急にSF作家になるつもりだろうか。調子こきやがって、二,三発殴って正気に戻してやった方がよさそうだ。期待しててくれ。」 

 この部分、「俺」の混乱ぶりをよく表していますね。しかし、作者が「俺」に八つ当たり的に怒鳴られているんですが、私には、ちゃんとからくりは考えてあるのよ、まあ見ててちょうだい、心配ないよ、違うよ、と宮部さんが言ってくれたように感じたのですが…私の願望でしょうか?



作品名 あ行〜な行       作品名 は行〜わ行



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