「ほんのわずかの間ですが、私は鹿児島の、母の里へ預けられていたことがありました。始めて会う親類でしたけれど、私は遠いところから、犬か猫でも来たような、肉親の厭な態度に、反吐(へど)とは人の顔に吐きすてるものの感じを強くしました。そのくせ、私は、その激しい反抗をひそめて、如何なる場合にもにこにこ笑っていなければならなかったのです。
(中略)
私は学校のかえりに城山に登って、町をみることや、火を噴いている桜島を眺めることがたいへん好きでした。
あの島の向うには、いったい、どんな国があるのだろうと思ったりしました。馬を連れた軽業師が、沢山の女の子を連れて住んでいるようにおもいました。馬や、牛や、兎のかたちをした雲をみると、私は雲の描く、空の動物園を実に愉しく眺めたものです。空には何があるのだろう、海のなかには、いったい、どんな町があるのだろうかと思いました。お化けのような町があるのかも知れないと思いました。
魚や貝が、海の学校へ行って、自分のように叱られているのもあるかも知れないとおもいました。」
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