昔住んでいた、城山のならびにある上之平の、高い石垣の上に建っていたあの家の庭から桜島を眺めたい。知らない人が住んでいるに違いないが、何とかしてお庭先に入れて頂いて、朝夕眺めていた煙を吐くあの山が見たかった。うなぎをとって遊んだり、父の釣のお供をした甲突川や、天保山海水浴場を見たかった。山下小学校の校門をくぐり天文館通りを歩きたかった。友達にも逢いたかった。
帰るといっても、鹿児島は故郷ではない。保険会社の支店長をしていた父について転勤し、小学校五年、六年の二年を過した土地に過ぎないのである。しかし、少女期の入口にさしかかった時期をすごしたせいか、どの土地より印象が強く、故郷の山や河を持たない東京生れの私にとって、鹿児島はなつかしい「故郷もどき」なのであろう。 |