私の宮部みゆき論

宮部みゆき『この世の春』に見る長編時代ミステリー小説

 今日(2017年12月3日)の地元紙「南日本新聞」に小生が執筆した宮部みゆき『この世の春』(新潮社、2017年8月30日)についての書評がやっと掲載されました。

 「やっと掲載されました」と書きましたのは、南日本新聞社の文化部の方が拙著『風が開いた書斎の窓』をご覧になって、拙著に宮部みゆき関連の拙文も掲載されていることに目をとめられ、メールで宮部みゆきの新刊『この世の春』を同紙の書評欄に書かれませんかとお誘いがあり、初めての商業新聞紙上への執筆ということもあり、三回も書き直しを依頼されたからです。

 まず一度目の拙書評については、メールで粗筋紹介に余りにも偏り過ぎだ書評を書いてお送りしたことから、「ネタバレにならない程度に、踏み込んだ『宮部みゆき論』を展開してください」との返信メールをいただきました。

 つぎに二度目の書評をメールをお送りし、そのとき同じ拙文をフェイスブックや拙ブログにそのまま載せましたので「今回、弊紙が依頼した書評は新聞紙面に掲載することを前提としたもので原稿料をお支払いして著作権も新聞社側に属する性格のものです。ですから、掲載前の公開はもちろん掲載後についても、使用許可の手続きなしに使うことは執筆者であってもできないものです」とのご注意をいただき、全く新たな書評文を書き直すことになりました。

 それで三回目の書評文を書き直してメールでお送りし、やっと今回の同新聞紙上の掲載が実現したのです。いやはや新聞紙上への書評は初めての経験であり字数制限のこともあり四苦八苦させられました。南日本新聞紙上に載った拙文に関心のおありの方はどうか同紙12月3日号をお買いになってご覧下さいね。

---------------------------------------------------------------------------
宮部みゆきの長編時代ミステリー小説『この世の春』(二度目の書評)

 宮部みゆきの長編時代ミステリー小説『この世の春』上下巻(2017年8月30日)は、彼女の初期作品でお馴染みの江戸は深川(彼女の生まれ故郷)から遠く離れた地方の藩を舞台にした『孤宿の人』、『荒神』に続く時代ミステリー小説で、江戸中期の下野国(現在の栃木県)の架空の二万石の小藩・北見藩を舞台に設定し、その六代藩主重興(しげおき)が乱心を理由に重臣たちにより強制隠居させられ「押込(おしこめ)」にあうところから始まります。

 藩主の地位を下ろされた重興は別邸「五香苑」の座敷牢に「押込」られ、この別邸の館守(やかたもり)の石野綾部、重興の主治医の白田登、世話係の各務(かがみ)多紀、御側警護役の田島半十郎たちがそこで接した重興がときおり小さな可愛い男の子、下賤で怪しげな女、凶暴な荒くれ男の三つの人格を持つことを知ることになります。
 重興が多重人格者なのは物の怪の祟りなのか、それとも精神的に病んだためなのか、白田登たちは協力し合いながらその原因を探り始めます。この謎が解明されていく過程で、北見藩内の出土(いづち)村で起こった根切り(村を丸ごと消し去ること)や藩内で密かに隠蔽されていた五代目藩主成興の急死原因、さらには北見城下での数人の男児失踪事件の謎等も次第に明らかにされていきます。

 読者はきっとこの長編時代ミステリー小説を読み始めると、重興の怪奇な「病」の原因のみならず、それとは全く無関係と思われていた他の様々な謎の事件が複雑に絡み合いながら深く密に関わっていることを知らされ、物語を夢中で読み進めることになると思います。

 宮部みゆきファンのなかには、現代を舞台にした作品は大好きだが、時代物は用語が難解だと敬遠する人もいますが、この作品は彼女ならではの魅力的で平易な文章で書かれており、ぜひ読んでもらいたい作品としてお薦めしたいですね。


 
                   「私の宮部みゆき論」トップに戻る
inserted by FC2 system